あたしは走ってその場から立ち去った。
「おい……」
途方にくれたような由宇くんの声が聞こえたけど、振り返らない。
………この
チキンっ!!
馬鹿っ!!
あたしの気も知らないでっ!!
あたしは動物園の出口に向けてがむしゃらに走る。
走る。
走る…
…ドンッ
…ぶつかった。
尻もちをつくあたし。
「………なぁにしてんだ、お前。」
聞き覚えのある声にギョッとしてあたしは顔をあげた。
「渡部………くん。」
呆れたように顔をしかめてあたしを見るのは、
紛れもなく渡部くん。
「…なんで…?」
あたしは力が抜けて立ち上がれず、弱々しい声で聞く。
「…なんで、って
誰かさんが殴らなきゃ一緒に行く予定だったはずなんですけどねぇ。」
そう言ってポンと頭に手をおく渡部くん。
「…大丈夫か。」
…信じられなかった。
渡部くんが、優しい。
…奇跡だ、これは。
レアだ、これは。
なんだか嬉しくて泣けてきた。