この頃のさらに一年前。


「じゃ、行ってきます。」


二年生に進級し、意気揚々と中学へ向かう。

馬鹿みたいに広い自分の家の庭を抜け、ようやく正面玄関までたどり着く。


「なんで父様は、こんな豪邸を建てたんだか…。」


我ながらすごく贅沢な悩みなのだが、俺は渡部コーポレーションの跡取り息子であるため、世間一般に言うお金持ちである。


そうであるばっかりに、毎日家を出るのに10分掛かるというありさま。


「ひーろくん!」


玄関には1年の時から付き合っている俺の彼女、赤井 莉央(アカイ リオ)がいた。


「莉央、よっ。」


「おはよー。
今日から二年生だね。」


莉央はニコニコ笑いながら話し始める。


「そうだな。
クラス離れるかもな。」


俺はわざと素っ気無いことを言って莉央の表情を伺った。


「…
そんなん、わかんないじゃん。」


莉央は悲しそうな顔してそう言った。


「…まぁ、クラス離れたって浮気しねーから安心しろ?」


「当たり前!」


そう言って頬を膨らます莉央。


俺はぷはっと吹き出してしまった。


「ハイハイ、分かりましたよ莉央サマ。」


この頃はすごく幸せで、この先起こることなんて全く気付かなかったんだ。