水に燃え立つ螢

時任は暫く車を走らせた。

何かの迷いから逃れたかったのか、近くにホテルはあるのに、わざわざ遠くのホテルまで走った。


迷いの意味は、ホテルに入ってすぐに分かった。




「凛ちゃん…僕は結婚しているんだ」





『だから?』





不倫の怖さを知らない、無知な子供だった。


「彼氏…にはなれないんだよ」

「いいよ」




時任は、壊れそうなものを触るように、まるで私が処女のような、そんな扱いをした。

その扱いが嫌ではなかったが、処女のフリをするわけにもいかない。
体位を数回変えながら、振るだけ振って果てた時任は、私に背中を向けて液体の入ったゴムを抜き取っている。
男のこの行為。これだけは好きになれない。できれば、見えない場所でお願いしたい。

私は、冷めていく快感を感じながら、ホテルの鮮やかな天井を見つめていた。まったく、この行為の後は、どの天井も同じに見えて仕方がない。


「凛ちゃん、初めてじゃないね?」


「初めてじゃないと駄目なの?」


「いや…少し驚いたんだ」


時任はうまかった。


これまでに経験した男たちとは、比べものにならないくらい、うまかった。
行為の最中は、快感が脳内を占めていて、時任が妻子持ちなことも忘れ、キスでさえ身体が溶けるかと思った。

その与えられる快感に溺れる自分を、少し離れた所から冷めて見ていた。



SEXは、気持ち良くてなんぼだ。


その行為に、愛を求めたわけじゃない。