水に燃え立つ螢

「俺も名前しか知んねぇよ」

「何言ってんの?」

「最初は見た目っしょ」

「アンタと一緒にしないで」



流星をその場に残し、ユカと歩き始めた。


「強引な男だねぇ」


ユカは怪訝そうに言った。



時々振り返ると、流星は一人で歩いている。



心配するユカと別れて、昨日流星と出会った階段を降り始めた。



「凛!」


『何で呼び捨てなのよ』


「待てって!」


流星が私の右腕を掴んだ。
そのまま両手で、頭を鷲掴みにした流星は、人気の多い階段で突然、唇を重ねてきた。


逃れようとする私。


「暴れるなよ」


「やめてよ…大声出すよ」


キスもSEXも、知らないわけではないが、この男とキスする意味がない。
無駄に嫌がりはしないが、空いている右手で喉元を押し退けた。
ようやく流星の力から解放され、階段である事を忘れていた私は、大きく一歩を踏み出した。が、その一歩は明らかに階段を踏み外していた。


『落ちるッ!』


心臓が肋骨を突き抜ける。
スローモーションで視界が斜めになっていく。だが、斜めの視界を元に戻したのは流星だった。
流星が私の体を掴んでいた。


「俺の女になれよ」


「ナメてんの?」


流星の腕を振り払い、何事もなかったかの様に颯爽と階段を降りた。



ホームには、目撃したであろうキスシーンを、手で隠した唇で笑う人たちがいた。

笑え。笑え。
気持ち悪い仮面をつけた大人たちに、真っ直ぐ背筋を伸ばしてやった。

私はならない。
そんな大人には。

なりたくないから、誰からの影響も受けない様、全ては自分の感覚のみだ。