水に燃え立つ螢

流星は、ダウンのポケットに手を入れた。


私はそれを眺めていた。


そんな私を、流星も眺めていた。



視線を上げると、流星は優しい笑みを浮かべて、言った。


「もう…やめろ」


何だか笑えた。

だから笑った。


「何で笑ってんだ?」

「別に」




長い長い沈黙。

息が抜けない。

抜けなくて、窒息しそうになる。

綺麗な筈の夜景も、脳内で暴れる虫によって、輝きを失っている。
私が残したかったものは、こんなものではなかった筈だ…。

深夜の風が冷たく頬を撫でて、身体の神経を鈍くする。


「車…戻ろうか」




誰かに気付いて欲しかった。


抜けない沼に、いることを。




いや、抜けないのではなく、抜かなかったのではないだろうか…。他力本願を拒否したが、結局、他力本願だったと、自分の汚さに嫌悪感が溢れた。


「凛…」



流星は、冷たい手を私の頬に当てた。

「大丈夫か?」

「アンタの手の方が冷たいよ」


登ってきた砂利道を降る。目が慣れてきたのだろう。登りより遥かに、視界は良好だった。
不安定な砂利道は、流星と私の距離を縮める。
だが、不本意な近距離に、自然と流星から離れて歩く。

時任と終わりにしなければならない。
本気でもないのに、こんな場所まで来てしまった。

別れの意志は強く、それは、謝罪にも似た気持ちだった。
別れるだけで、全てが消えるわけではないが、私にできることはそれだけだ。