水に燃え立つ螢

助手席のドアを開け、流星は私を引っ張った。


「来いよ」

「寒いんだけど…」



暗くて良く見えない景色。

恐らく何処かの山だった。


砂利道を月明かりで歩く。

視界がボヤけて、足元が不安になる。


流星は、私を支えるように引っ張っていた。


「拉致かよ」

「拉致ってやってるの」


道の先に、木々の切れ目が見えた。
深い紺色と、淡い青と、薄い紫が混ざった薄明るい空が木々の先にある。

流星に引かれながら歩く道。
そして、其処には、絶景とは言えない、だけど綺麗な夜景が広がっていた。


「…こんな場所があるんだ」

「本当は車で上がって来れるんだよ」


開いた口が塞がらない。


「じゃあ何で歩くんだよ!」

「試練を与えてやったの」

ケタケタと楽しそうに笑う流星の隣で、私は、どうでも良くなって、笑った。



「見つけたのは、俺が先だったんだ」

「この夜景?」

「いや。お前」


現実が襲ってきた。


「兄貴とホテルに入るのを見かけて…姉ちゃんのことより嫉妬したよ…」


「知ってて近付いたの?」

「知ってたけど、好きだったんだ」


流星。
貴方は、どんな気持ちを背負い、抱えて、私を見てきたの…?

愛とは、そういうもの…なの…?


分からない。
自分の感覚になんてできない。

初めて出逢った階段も、
私を待っていた駅も、
一緒に歩いた夜の街も、
私を引き止めたあの腕も、

どんな時も、どの瞬間も、
私を知っての言動だった。