水に燃え立つ螢

俺が初めて凛を見たのは、駅のホームを颯爽と歩く凛だった。

俯くこともなく、まっすぐ前を見据え歩く姿に、時間が止まったような感覚に陥った。


中学の頃から、女に不自由はしていなかったが、こんな女は初めてだった。目が離せなかったんだ。それから、時々駅で見かける内に俺は駅で待つようになった。ツレに気付かれて白状した時、ツレは口を揃えてこう言った。


「気の強そうな女だな」


確かに。だが、そこが良い。

黒くも茶色くもない髪。背中までのストレート。電車が巻き起こす風にも弛まず、ただ其処に立つ凛。


「カッコいい女だよ」


何度か凛と擦れ違い、何度か目が合ったりもした。

その度に俺は、息を飲みながら心の中で言ってたんだ。


『俺に惚れろ』


凛、お前は一切興味を示さなかったよな。
ただ、俺を『見た』だけ。
いや、俺じゃねぇな…物体を見ただけのような視線だった。


まさかお前に、ここまで惚れるとは思ってなかった俺。



ある日の夕方、ツレと一緒にバイクで遊んでいたら、時任さんの車を見掛けた。
助手席に目をやると、凛が座っていた。


『…どういうことだよ』


思わず後をつけて、愕然とした。





お前が不倫?

姉貴の旦那の浮気相手が、お前?

本気なのか?




赤信号に気付くのが、少し遅れてダブルで焦った。




凛、お前は笑顔を忘れたような顔で人形みたく表情がなかったよ。



だから、お前を救い出してやりたかった。

その暗い穴の中から。