水に燃え立つ螢

ホテルを出る時、時任は必ずお金を渡した。

「電車とタクシー代」

そう言って渡すお金は、いつも1万円だ。交通費を遥かに上回る金額。

私は決して、いらないとは言わない。


時任が望んで出す。

それを受け取るだけだ。



帰りの電車の中、流れる灯りを眺めた。

窓に映る仕事帰りのサラリーマンに目を移し、この人には愛人がいるだろうかと、どうでも良いことを考える。


私は、必要とされているのか。

私が、必要としているのか…。

私、時任でなくてはならない理由なんか…ない。

必ず襲う虚しさを、鎮める術を知らなかった。

そんな術など持っていなかった。



乗り換えの為の、あの階段に差し掛かった。



流星がいた。



流星だ。



階段の最上段の壁に、凭れていた。


「な…何してるの…?」


いつもの無視はできなかった。

できない位、流星の雰囲気が違った。


「お前こそ何してんだよ」


「あ…アンタに関係ないじゃん」

「最終じゃねぇか」

「間に合ってるし」


流星は、背にした壁を右足の裏で蹴り、大きく溜め息をついた。

「ちょっと来いよ!」



怒りかなんなのか分からないが、流星の顔を歪めている原因は、紛れもなく私だ。その私の右手首を掴んで、人気の少なくなった駅を駆け出した。

その手は、何故か温かく、何故か温かくて。
手を引く流星の背中を見ている私は、完全に時任を忘れていた。