水に燃え立つ螢

「また遊びにおいで」

父はそう言って、連絡先を書いた紙をくれた。親子と呼べる関係には、まだ少し距離があるが、それはこれから埋めていけばいい。

「ずっと、一緒にいてくれてるのか?」

一路に尋ねた父に、一路ははにかんだ笑みで頷いた。

「よろしく頼むよ」

「はい」


私は一路の凛々しい顔を、誇らしげに見ていた。


店を出て、まだ賑やかな裏通りを一路と歩く。


「親父さん、嬉しそうだったな」

「うん…一路、本当にありがとう」

「たまたま見つけたんだよ」


紺地に白字の『凛』の暖簾。父の思いも、痛いほど伝わっていた。

私は、母の手紙を渡せた達成感と、父に会えた幸福感で満たされていた。




数日後、父が母に会いに来た。母の遺影を前に、長く手を合わせる。


「あんまり変わってないな」


母に笑いかけて、父は大きく深呼吸をした。


遺影の母から

「当たり前じゃん」

と聞こえた気がした。



「母さんは、あのベランダからいつも夜空を眺めていました…星が導いてくれるわと言って…」


「俺は、凛に会うよ…会いに行くよ」

父は幸せそうに微笑んだ。




母さん、やっと、会えるね。

いつか、父さんも行くんだって…

それまでは、私が傍にいるからね…



ベランダの母の花が、ユラユラと揺れていた。