水に燃え立つ螢

駅前通りの裏…サラリーマンが沢山歩いていて、駅前通りとは別の顔を見せていた。


「飲み屋ばっかだな」

「ほんと…」

「あ!あれだ!」


一路の指の先…そこには紺地に白い文字で『凛』の暖簾。店の前まで来て、二人で深呼吸をする。

「緊張してきた」

「俺も」


一路が握っていた手に力を込めた。


「行くぞ」


一路は静かに引き戸を開けた。店の中はとても賑やかで、笑い声に溢れていた。カウンターの中には、短髪の男の人が一人。目の前のお客さんと話している。

私たちに気付いた男の人は、私の顔を見て確かに言った。


「凛…!」


笑い声に埋もれた声。

でも、確かに言った。母の名を。





この人が、父さんだ…





一路が手を引いて、店の奥のカウンターに腰を降ろした。

「ついでに飯食おうぜ」

「……」

「最愛?」

「一路…父さんよ…」

「えッッ!?」



男の人はオシボリを私たちに渡すと、

「飲み物は?」

と聞いてきた。


「二人とも…ウーロン茶をください」


呆然としている私の代わりに、一路が注文をしてくれた。



泣きそうだった。




零れそうな笑顔。
優しい声。
母の愛した人。


私の父さん…