水に燃え立つ螢

普通に生きていて、何処かで擦れ違ったとしても、きっとお互いに気付けない筈だ。

もしそんな奇跡が起こるなら、今までにも出会えた筈。


顔も声も知らない。

母が若くして亡くなったように、父も生きているとは限らないんだ。



絶望を微かに感じながらも、私は強い思いに駆られていた。





これは、母の意志だと。




添い遂げられなかった、母の一生を父には知ってもらうべきだ。

生きていようと、亡くなっていようと、出会えなかったとしても、私が諦めたら母の意志は終わる。


そう、『遺志』ともいう。



手紙には、捨てられたわけではないとあった。

二人は断腸の思いで別れるしかなかったと…



それでも、母は一人で私を産み、最期まで父だけを愛した。




私が産まれたことすら知らない父。


もし会えたら、父はどんな顔をするのだろう。





父には、幸せでいて欲しい。

母と同じ思いをしているなら、母の人生はとても不幸になる。



寄り添えた筈の二人が、別れてまで歩んだ人生とは…

母の気持ちだけで言えば、それは余りにも過酷な人生ではないか…




そんな思いが、溢れてたまらなくなる。