「そんじゃあ、送ってくるから。んで帰りにヨシ拾って来るって、伝えといて。」
にこやかに笑いながら、柾希が客間から出てきてそう言った。
ヨシ、とは芳典の事だ。
なんだ、マサ兄が帰省するって聞いてないぞ?
玄関に背を向けたまま、立ち尽くす映樹の肩を、柾希はポンと叩いてすれ違う。そのまま靴を出す。
「なんか…あんの?」
「バースデーパーティー?」
帰省の理由を尋ねたら、イイ笑顔で返された。
「お礼に勉強みてもらいなよ。」
「えっ…。」
柾希と早苗は靴をはきながら、そんな会話をしていた。
言われて困惑している早苗に、車出して来るからココにいてね。
そう言って柾希は外に出ていく。
なんとなく変な空気になって、映樹は心中(クソ兄貴)と毒づく。
マサ兄は、俺の早苗に対する気持ちを知っていて、あんな事言ったんだ。
余計なことを、そう思う一方で、お礼か…と考える。
今までしたことが無い。
ならば、ここは兄の言葉に乗っかって。
「…じゃあ、今度一緒に試験勉強するか。」
ゆっくりと、少しだけ振り返ると。
頬をうっすら染めて、早苗は嬉しそうに小さく笑う。
その様子に、映樹の心は全部持っていかれる。
お待たせ。
えっくん、お休み。
兄と早苗の声が、遠くから聞こえてくる様だ。
