俺達の学級では班の間で『班ノート』を回すという決まりがある。
 班ノートというのは、家族日記とか交換日記を想像してくれたら解りやすい。班員で、順番通りに一ページずつ書いて回していく。部活の事だったり、晩御飯の事だったり、絵しりとりとかの企画も勝手に作ったりする。

 「一番が昴、二番が雛森、三番が唯谷──で、俺は最後」
メモ帳にインスタントな阿弥陀籤を書いて、班ノートの順番を決めた。

 「俺一番? よっしトップバッター様が美しい字で歴代八班のページを綴ってやる!」
「空知くん字綺麗なのっ? いーないーなー」

昴と雛森が早速仲良くなっていた。変なもの同士意気投合か?
 盛り上がる二人に少々呆れつつ、唯谷と顔を見合わせて肩を竦めた。これは常人同士の意気投合である。

 「おいおい昴、お前科学の先生に『これはインド語ですか』って真顔で聞かれてたじゃねーか」
「いや、いやいやいや、それは誤解だよ神崎氏」
「なんだよ神崎氏って!」

そのやり取りに雛森は純粋に哄笑し、唯谷は可笑しそうに口にてを当てて笑っていた。

    ◆  ◆  ◆

 三時間目の古文。
おっさんの先生(愛称かほるちゃん)が読んでいる『奥の細道』を子守唄に、雛森は眠っていた。またペンケースを枕にしている。

「…………」
寝顔やべえ。
こういう時は『悪戯する』のコマンドを選択するべきだ。
そのペンケースを横から引き抜いてみた。

「わぺっ」
小動物みたいな声を出して、当たり前のように雛森の頭は机に落ちた。

「うーん……?」
眠そうに目を擦り、寝惚けているのか、きょろきょろしながらストレートの黒髪を揺らした。

「雛森」
「およ? 神崎くんだ」
「一応言っとくが只今授業中なのだ」
「なんですとっ」

気分は寝台の上だったらしい。
「ああ。だから、今寝てしまうとかほるちゃんに横目で睨まれてしまう危険性がある」
「うーん……修羅場ー……」