マフラーで隠しきれない頬に冷気が刺さる。時間にルーズな方ではないが、12月にもなるとどうしても朝がつらくなる。
 あくびを噛み殺しながら俺は学校への道程を急いでいた。遅刻にはならないだろうと思うのだが、携帯電話のアラームを止めたあとにもう一度眠ってしまったことが手痛い。
 秋口の一件以降特に変わったことが起きるでもなく、桂との関係は平行線をたどっていた。
 ピアノの演奏を聴くこともあれば、なにをするでもなく遅くまで他愛のない会話をしたりもする。時折桂がアルバイトが入っていると言って先に帰宅したり、俺が友人たちとの約束を取り付けたことで音楽室での時間が無くなることもある。それをお互いがどうこう言うことはない。外野に言わせれば交際しているようにしか見えないのであろう俺たちは、相変わらずただの友情で繋がっていた。
 桂との距離で悩んだことも、俺にとっては過去の出来事となっていた。
 階段を上り教室の入口をくぐる。いつもより少々遅い登校時間。クラス内には見慣れた顔が揃いつつあった。
 桂は教室の奥で女子グループと談笑している。わざわざ近付いて声をかけずとも、そのうちあちらから寄ってくるだろう。