翌朝、目を覚ました時点から憂鬱は始まっていた。俺は今日、どんな顔をして桂に会えばいいのだろう。
 重たい体を引きずってのろのろと登校の準備をする。できることならこのままサボってしまいたい。けれども、いつまでもそうやって逃げ続けるわけにもいかない。
 ワイシャツのボタンを留めていると、音楽室で桂に触れられたことを思い出す。桂の細くて長い指がゆっくりと胸元を伝う、その感触。とろけるような視線が絡み付く。
「………うわあ……」
 何気なく視線を落としてから、俺は力なくその場にしゃがみこんだ。朝だからだ朝だからだ朝だからだ、と呪文のように唱えてはみたものの、抗うことができない生理的反応に泣きたくなった。
 最悪だ。桂を、友達を、そういう目で見るなんて。
 頭を抱えてうなだれたところで、ある言葉が胸の奥に引っかかった。「友達」――。
 昨日悶々と自身に問いただした議題が再び渦を巻いていく。けれども何度首を捻っても出なかった答えを慌ただしい朝の時間に見つけられるはずもなく、俺はすぐに諦めて乱暴に髪を掻き回した。
 俺がいまやるべきことは桂との関係を再確認することじゃない。桂の前でいかに平静さを保つかについて考えなくては。