プレゼント、とはどういうことなのだろう。いくら桂が自主的にピアノを演奏しに音楽室に足を運ぶような生徒でも、学校側から個人に鍵が贈呈されることなどあるわけがない。西川先生は優しいひとだが、一生徒に明らかな贔屓をするような人間ではない。ならば一体誰が。
 ――咲き乱れるノウゼンカツラはいつの記憶であったか。いまよりもずっと低い位置から朱黄色の花を見上げる俺に、年老いた隣人が声をかける。
 華やかで堂々としていて、美しい花でしょう。でも気を付けて。ノウゼンカツラの花の汁には、毒があるからね。
 桂の白い手のなか、浮かび上がる赤いリボンは、ノウゼンカツラの花のようだった。