一定の距離を保ちながら、私は部屋へ入ると入口付近で立ち止まった。

先程までいた廊下が見えなくなり、何もなかったように塞がってしまっている。

部屋の中を見渡すけど、ベッドと小さな机や椅子があるだけで、特別な部屋とは思えない。

大きな窓から差し込む光りが、王の赤い髪を輝かせていた。

『名はなんと言う?』

張り詰めた空気を裂くように、容姿に似合わない低い声が部屋に響き渡った。


『……み、美琴。』

一言、自分の名前を言うのが精一杯だ。

『我が名はカミア・レオ・セルマーレ。エルドラ大国第12代王だ。歳は数えで22になる。…………美琴、くだらない話はしない。ここへ招かれた真実のみを伝え、それを実行してもらう。』


息を吸い込むのも忘れるような緊張感が私を包む。

覚悟はできていたはずなのに、知ってしまったらもう逃げられない気がして、後退りしたい気持ちが私を支配した。


『お前の役目はただ1つ―――――。……..』



カミアの瞳が私に向けられ、息をのんだ。

不謹慎だけど、あまりにも透き通り、綺麗な瞳に吸い込まれてしまいそうになる。


だけど……

次の言葉を聞いた瞬間、私は全身が嫌悪感と恐怖感に蝕ばまれ、自分の中の何かが崩れていく事になる。



『このエルドラを護り、救う王族の跡取りになる子を宿す事だ。お前にしかやり遂げる事はできない。』



あまりに残酷な真実――。


死を宣告されたのと同じような感覚に、私は目の前が真っ暗になった。