『取り逃がした?』

低い声が、不気味に響き渡る。

暗く湿りきったどこまでも続く長い洞窟の中で、妖しい二つの影が揺らめいている。


『…はい。あの娘、【哀しみの森】へ落ちたようです。こちらへ引っ張るつもりでしたが…。』

ビクビクするでもなく、床に膝を付けた小柄な男は、悪びれる様子さえ見せずに口を開いた。


『……まぁよい。急ぐ事もないだろう。直に手にしてやる。』

もう一人の身分が上であろう男は、立ち上がると笑みを浮かべる。




『どんな手を使っても手にしなければ…。わかっているな?』


『はい。わかっております。既に仲間を手配させております故。』



どこからともなく吹き込んだ生暖かい風が、唯一の光である蝋燭の火を消し去った―――。