ガチャリと洗面所の扉が開く。


『何してるの?』

見馴れた顔に、ホッと胸を撫で下ろした。

不思議そうな顔で私を見ている旦那。

仕事が終わったのだろうか。

『お、おかえり…。仕事は?』

ぎこちない口調。

自分の旦那と話をするのに、なんで緊張してるんだろう…。

…まぁ、いつもの事だけど。

『あぁ、もう夜だからね』

短く言い放つと、視線を合わせないまま、リビングへ行ってしまう。

『そっか…。おかえり。』

届いてないとわかっていて、小さく言葉を投げかけた。


時間、経ってたんだ…。

やっぱり、夢なんかじゃないよね?

ジャスミンを見つめるけど、私の腕の中で気持ち良さそうに目を細めている。

『はぁ…』

大きく溜息をつくと、嫌々ながら私もリビングへ向かった。



会話なんてない。

あの日から笑い合う事も。

一応、恋愛結婚だったんだけど…。

冷たい背を向けて前を歩くのは、30になる私の旦那。一臣。(かずおみ)

会社の先輩で、仕事が出来て、優しくて、みんなの憧れのような存在だったんだけど…。

今はその影すらない。

そう…私に子供ができないとわかったあの日から、格好は変わらないけど、仕事に行ってるんだか、どこに行ってるんだかわからないし。


『夕飯は?』

支度してないけど、一応声を掛けてみた。

『食べてきたよ。』

あぁ、やっぱりね…。

ジャケットを掛けると、また2階の自分の部屋に上って行ってしまった。

結婚…してる意味あんのかな…