芦多はにっこり笑って首を傾げた。



「会いにきた。」


「いいんですか?」



気を利かせてくれたのか、灯世と一緒に炊事を請け負っていた兵は席を外してくれた。



「会えなければ、私は今すぐお前をさらって軍を抜ける。」


「そんな…。
何だか本気でやりそうですね、芦多様って。」



本気だが。



クスクス笑う灯世を見て、そう言おうとしたがやめた。



「大丈夫か、身体はつらくないか?」



訊くと、灯世は笑顔で首を振った。



大丈夫ですよ、と芦多の手をとる。



「芦多様こそ、手が…。」



芦多はぱっと手を引っ込めた。



荷物を持ち上げるとき、誤って手を切ってしまったのだ。



大きな傷ではないが、ヒリヒリと痛む。



「大丈夫だ。
こんな傷、すぐに治る。」


「そうですか。」



灯世は言いながら、もう一度手をとる。



「これ以上大きな傷を作らないでくださいね。」


「何を言っている。
まだこれからだ。」



そうだ、これからだ。



今はまだ、開始点に過ぎない。



「灯世こそ。
後生だから、無茶はしないでくれ。」


「芦多様こそ。」



灯世は寂しそうに笑って、芦多に身体を預けた。



芦多は優しく包む。



「…自分の隊に戻りたくない。」



このまま、ずっと灯世を自分の腕の中に留めておきたい。



目の届くところに、いてほしい。



「まったく、芦多ってば。
まだ1日も経ってないっていうのに。」



突然聞こえた声に芦多は目を開けた。



「爪鷹貴様いつの間に…!」


「あのねぇ、みんなずっとあんた達二人を見てるよ?」



言われて、二人して辺りを見渡す。



なるほど、チラチラとみんなが交代にこっちに視線を走らせていた。