この空の彼方

妻を戦地に向かわせるという心境はどのようなものなのだろう。



「灯世様、お急ぎください。」



いのの声にハッとして動き出した。



灯世が式に遅れるわけにはいかない。



……辰之助も。 



灯世は仕切りを越えて、辰之助を起こしに向かった。



「辰之助様、お目覚めください。」



珍しいことに、辰之助はすぐに目を開けた。



「時間か。」


「はい、そろそろ用意のほうを。」



素直に辰之助は起き上がった。



「灯世、帰ってこい。」



背中に声がかけられた。



複雑な気分だ。



なんだか母性本能に近い感じ。



灯世は笑顔を作って振り返った。



「はい、きっと戻ってきます。
それまで辰之助様もお元気で。」



なんとも言えない顔をした辰之助が灯世を見つめている。



灯世は踵を返して部屋を出た。








これが、辰之助との最後の会話だった。