この空の彼方

「少なくとも、愛した女を抱いたことはない。
仕方なくはあるが…。」



灯世は聞き逃さなかった。



「仕方なくはあるって?」



灯世ははだけた浴衣の前を合わせながら、後ろ手に肘をついた。



「詰め寄られてということですか?」



芦多は不機嫌に顔を歪めた。



「知らなくていい。」


「知らなくていいって?
私…。」


「いいと言っているだろう!」



ビクリと身が竦んだ。



芦多はそれでも灯世を睨んだ。



「灯世こそ、何度経験した?
私が知っているだけで、辰之助様、今夜の男三人。
しかも、辰之助様に限っては子どもまで…。」



灯世は指折り数える芦多を突き飛ばした。



芦多は踏みとどまったものの、呆気にとられている。



「酷い…!
よくそんなこと…。」



駄目だ、また涙が…。



視界が歪んでいく。



身体から熱いものが突き上げてきた。



好きでそうなったわけではない。



「気にしないって言ってくださったのに、辰清のことも気にしないって言ってくださったのに!
どうして今そんなことを!」



耐えきれなくなって、灯世は部屋を飛び出した。



かといって、行くあてもない。



灯世は中庭にうずくまった。



こらえきれず、嗚咽する。



どうして芦多様はあんなこと言うのだろう。



今まで灯世が泣いたとき、気にしないと言ってくれたのは嘘だったのだろうか。



どうして、あの雰囲気の中、こうなってしまったのだろう。



発端は自分の一言だったのはわかっている。



しかし、どこが彼を刺激したのかわからない。