この空の彼方




***



灯世は芦多に連れられ、一軒の宿屋に入った。



芦多は待っていろと言い残し、宿の中に入っていく。



暗い中一人でいるのは恐かったが、灯世は芦多に着せてもらった着物をギュッと握って我慢した。



カサカサという音が聞こえるたび、灯世はビクリと身体を竦ませた。



馬の背でうずくまる。



お願い芦多様、早く戻ってきて…。



向こうに提灯の灯りが見えた。



そして、それと共に男の声も近づいてくる。



ガタガタと身体が震う。



灯世を押し倒したときのあの笑い声。



力一杯、灯世を押さえつけた腕。



そして、何よりも苦痛に耐えている灯世の上で見せた獣のような顔。



すべてが頭に浮かんできて、灯世を恐がらせた。



呼吸が荒くなる。



嫌…。



もう、何も感じたくない…。



悲鳴が喉までせり上がってきた。



「灯世!」



叫ぶ直前に、芦多が戻ってきて、灯世の顔を包み込んだ。



そして、耳を塞いでいた灯世の手をゆっくり外させる。



灯世は滑り落ちる馬から降りた。



芦多がそれを手伝う。



灯世は降りた勢いで芦多に抱きついた。



「すまない。
一緒にいるべきだった。」



芦多の胸に押しつけた耳元で囁かれ、気持ちが落ち着いていく。



「角部屋がとれた。
行こう。」



芦多は灯世を傍らに抱いたまま馬を預け、中に入った。



主人が芦多にくっついたままの灯世を不思議そうに見ている。



それを気にせず、芦多は毅然と歩いていた。