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灯世は芦多に連れられ、一軒の宿屋に入った。
芦多は待っていろと言い残し、宿の中に入っていく。
暗い中一人でいるのは恐かったが、灯世は芦多に着せてもらった着物をギュッと握って我慢した。
カサカサという音が聞こえるたび、灯世はビクリと身体を竦ませた。
馬の背でうずくまる。
お願い芦多様、早く戻ってきて…。
向こうに提灯の灯りが見えた。
そして、それと共に男の声も近づいてくる。
ガタガタと身体が震う。
灯世を押し倒したときのあの笑い声。
力一杯、灯世を押さえつけた腕。
そして、何よりも苦痛に耐えている灯世の上で見せた獣のような顔。
すべてが頭に浮かんできて、灯世を恐がらせた。
呼吸が荒くなる。
嫌…。
もう、何も感じたくない…。
悲鳴が喉までせり上がってきた。
「灯世!」
叫ぶ直前に、芦多が戻ってきて、灯世の顔を包み込んだ。
そして、耳を塞いでいた灯世の手をゆっくり外させる。
灯世は滑り落ちる馬から降りた。
芦多がそれを手伝う。
灯世は降りた勢いで芦多に抱きついた。
「すまない。
一緒にいるべきだった。」
芦多の胸に押しつけた耳元で囁かれ、気持ちが落ち着いていく。
「角部屋がとれた。
行こう。」
芦多は灯世を傍らに抱いたまま馬を預け、中に入った。
主人が芦多にくっついたままの灯世を不思議そうに見ている。
それを気にせず、芦多は毅然と歩いていた。


