この空の彼方

二人きりになると途端に静かになった。



芦多の向かいでは灯世がぐったりとうなだれている。



芦多は無言で立ち上がって灯世の隣に座った。



月に光が灯世の顔に影を作っている。



芦多は灯世の肩を抱いた。



「灯世。」



意味もなく灯世を呼ぶ。



灯世は顔を上げた。



何とも言えない顔をしている。



きつく噛まれた唇が震えていた。



「おいで。」



腕を広げると、少しの間我慢していたようだったがギュッと抱きついてきた。



芦多も力一杯抱き締める。



「もう、大丈夫。」



言いながら芦多は優しく頭を撫でた。



だんだんと灯世の泣き声は大きくなる。



聞いている芦多もつらかった。



どれほどそうしていただろう。



灯世の顔に差す影の角度が変わった。



その頃にようやく灯世は泣き止んだ。



「落ち着いたか?」


「はい……。」



赤い目。



灯世は赤くなった目を瞬いた。



「……なにがあったんだ?」



教えてくれ、と芦多が言うと、灯世はまた芦多に抱きついた。



「私、房姫様に誘われて…。」



話を聞くと、殺意がみなぎってきた。



話の後半には灯世はまた涙を流し始める。



芦多が涙を拭うたび、灯世は何度も謝った。



「山を下りようとしたら、男の人が三人やってきて。
逃げたんですけど、捕まって…。」



ガタガタと震える灯世を芦多はきつく抱き締める。



いとおしかった。



自分を頼ってくる灯世を守りたい。



「どうしよう、私、また妊娠したら…。」



芦多はまた気を失いかけた。