この空の彼方

お願いだ、軽蔑しないでくれ。



離れていかないでくれ。



「部屋、行きましょう?」



灯世の声は魔法のようだ。



たちまち身体が軽くなる。



灯世に手を引かれ、芦多は部屋に向かった。



長い長い廊下。



その両端に部屋がいくつも並ぶ。



灯世は迷いもせず、芦多の部屋に入った。



芦多を座らせると、灯世は正面に座った。



「知ったのは、ついこの間です。
氏神様の一件があったでしょう?」



答えない芦多を気にした風もなく、灯世は続ける。



「その時、母様から聞いたんです。
私が鍵で、芦多様が型だと。」


「どうして黙っていた?」



訊くと、灯世は少し困った顔をした。



「芦多様が名前を教えてくださらなかったのも、それが原因かと思って。
それに、いつか話してくださると思ったから…。」



芦多様の口から聞きたかった、と灯世は言った。



胸をえぐられたような気がした。



自分は最初から灯世の情報をしっかり掴んでいたのに、灯世のほうは名前すら知らないまま付き合ってくれていたのだ。



…こんなの、芦多がずるい。



「悪かった。」



でも、話すのが怖かったんだ。



小さい頃からの嫌な思い出がよみがえる。



“どこの子?
可愛いわねぇ。”

“いつでも遊びにいらっしゃい。”



そう言って、屋敷の母親達は芦多を撫でた。



なのに、正体がわかると、決まってみんな芦多を遠ざける。



“まぁ、型の。”

“気持ち悪い、近寄らないで。”

“親無し。”



そう言われるのがもう慣れっこだった。