この空の彼方




さっきから無言で歩いている。



やっと、稽古場の喧騒が聞こえないところまできた。



そこで灯世が口を開く。



「こうやって散歩するのは久し振りですね。
会うことはありましたけど。」


「ああ。」



言葉がすらすら出てこない。



まったく、自分は子どもすぎる。



「さっきはすいませんでした。
芦多様に不快な思いをさせてしまったようで。」


「いや。
私が幼稚なだけだ。」



本心だ。



男の好みを訊かれたくらいで、嫉妬して。



嫉妬したのは彼らの下心だが。



「いいえ。
あなたの前であんな質問を受け答えする私が悪いんですよ。
私だって、あんな場面に遭遇したら、権力にものを言わせてその女共を追い出しますもの。」


「お前のほうが怖い。」



ふふん、と笑うその顔が美しくも怖かった。



「私、ちゃんとあなたが好きですって言いましたよ?」


「え?」


「さっき。
強くて優しい方って。」



ああ、あの答えか。



でも、それは…



「私なんかよりも強くて、優しい奴があの中にいたかもしれないぞ?」


「確かに、優しい方はいらっしゃったかもしれませんが、この屋敷中で一番強いのは芦多様でしょう?
そして、その次が白柄彦様。」



そして、と灯世は続ける。



「でも、やっぱり一番優しいのは、芦多様ですよ。」


「そうかな。
あの型連中の中にも…。」



はっとして口をつぐむ。



言ってしまった。



横目で灯世を窺う。



灯世は険しい顔をしていた。



大変だ、機密を…。



「灯世?」



返事をしない。



話すときがきたか。



意を決して、口を開く。



「灯世、話が…。」


「知ってます。」



…え?