この空の彼方

灯世は正座をしている少年を振り返った。



「えっと…。
坊、だっけ?」


「そいつ、名前ねぇよ。」



灯世が話しかけているのに気付いた千歳が言った。



「え?」


「名前がないから坊って呼んでるだけだ。」


「坊っていうのは坊主、つまり小僧って意味だ。」



千歳の説明に耶粗も口を添える。



そう、なのか。



芦多を見ると、頷かれた。



そんな…。



名前がないなんて。



そういえば、前にそんなことを言っていた気がする。



「……つけてあげましょうか?」


「え?」



灯世の言葉に四人が反応する。



千歳がずざっと滑ってきた。



「灯世、本気?」


「ええ。
だって、名前って必要でしょう?」


「そうだけど…。」



灯世は首を傾げた。



「何かいけないことなんですか?」


「いや、その…。
端的に言うとだな。」



頭を掻く千歳のあとを、爪鷹が引き取った。



「俺達の素直な意見としては、これ以上深く付き合って欲しくない。」



灯世が振り返ると、爪鷹が本を抱えて微笑んだ。



「そして俺個人の意見としては、そんな奴に灯世様直々に名前なんて大層なもんつけてやんなくていいよ。」



灯世はぽかんと口を開けた。



ありゃりゃ、と千歳達は頭を掻いている。



芦多はため息をついて顔を覆った。



「……灯世〜?」


「あ〜。
そんなに嫌ってらっしゃったんですね。」



むしろ清々しいほどの笑顔を浮かべ、爪鷹は片付けを再開した。



「まったく、爪鷹は容赦がない。」



芦多が呟いて灯世の傍らに膝をついた。