この空の彼方

男の子はまた驚いたように息をのんだ。



後ろで千歳達の声がした。



「坊、こっち来い。」



普段ならきっと言うことなど聞かないだろうが、混乱しているのか今は千歳の言うとおり、おとなしく縁の下から這い出た。



「芦多、俺達、先に戻ってる。」


「ありがとう。」



灯世も何か言おうとしたが、喉が詰まって声が出なかった。



「いい。」



芦多が頭を撫でる。



「みんな、わかってくれてる。」



灯世はくるりと向きを変え、芦多に抱きついた。



一瞬、芦多の苦しそうな顔が見えた。



私、困らせてる?



顔を上げると、目が合う。



芦多はまた頭を撫でた。



「ごめんなさい。」


「どうしていつも謝るんだ。
私には理解出来ないくらい苦しいだろうに。」



胸にもたれる。



あたたかい…。



自然と気持ちが落ち着いていった。



「もう、大丈夫。」


「もう少し。」



立ち上がろうとする灯世を、芦多は引っ張って止めた。



「待ってくれる。」



考えを読まれている。



灯世は素直に腰を下ろした。



「まだ、忘れられないんです。」


「辰清をか?」



こくんと頷く。



「忘れなくていいだろ。
忘れることなんか、出来ないだろう。」



むしろ覚えていた方がいい、と芦多は言った。



「私はずっと覚えている。」



灯世を見た目はやっぱり優しかった。



しばらくして、芦多は声をかけた。



「戻るぞ。」


「はい。」



手を引かれる。



灯世はその手をギュッと握った。