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「芦多、わかっているな。」
芦多は黙って頷いた。
ついこの間、屋敷の結界が破られた。
入り込んだ魔物は大守護者が仕留めたらしい。
が、油断は出来ない。
あれだけの魔力を持った魔物を送りこんで来たということは、敵方もある程度この三芳ノ国の侵略に力を入れているということだ。
もしかしたら、本気かもしれない。
もし攻め入られた時は……芦多が辰之助の身代わりとなって、血を繋ぐのだ。
「これまで以上に訓練は辛くなる。」
政隆の言葉に顔をしかめた。
これまでだって、政隆は厳しかったではないか。
「わかった。」
それでも、やらなければ。
自分はその為にこの屋敷で暮らし、学び、生かされてきたのだ。
人生は辰之助に捧げていく運命なのだ。
今更覚悟も何もない。
今日この頃、身のこなしや癖まで真似られるようになってきた。
最早、自分は芦多であって、芦多ではない。
「参る。」
縁側に座っていた政隆は、スッと立ち上がり、槍を構えた。
芦多も愛用の剣を構える。
もう数年前から稽古の時も真剣を使っている。
最初のうちは重さに慣れずによく切り傷を作ったが、最近では思うがままに操れる。


