この空の彼方

辰之助はニコニコと機嫌よく入ってきた。



「お久し振りです。」



灯世が会釈すると、辰之助も笑って答えた。



「灯世はあの夜から引っ張りだこだったからな。」


「ありがたいことです。」



言ってみたものの何がありがたいのか灯世自身にもわからない。



「灯世、今日は嬉しい知らせがあってきた。」


「嬉しい知らせですか?」


「うん。」



座ってもよいか?と訊かれ、灯世は慌てて座布団を勧めた。



「実はな。」



辰之助は座布団に腰を下ろしながら言った。



「八重殿が戻って来られることになったんだ。」


「母様がですか?」



灯世の声は興奮で裏返った。



「やっと大方片付いたらしい。」


「そうですか。」



灯世の顔が緩んだ。



「もう、どれくらい会っていないのかしら。」



そういえば、丈とも会っていない。



懐かしくて、灯世の胸がチクリと痛んだ。



「明後日の夕方に到着予定だ。」


「ご親切にありがとうございます、辰之助様。」



灯世が頭を下げると辰之助は照れたように笑った。



「では、またな。」



灯世の前から逃げるように辰之助は部屋を出た。



侍女と共に辰之助が立ち去るのを確認してから、灯世は芦多に声をかけた。



「もう大丈夫ですよ。」



そろりと戸が開き、芦多が顔を出した。