この空の彼方

「どうしたんだ…ッ。」



芦多は灯世を抱き締める。



「来ます…!」


「え?」


「魔物が、来ます!」



魔物、と呟いて、芦多は身体を離した。



「感知出来るのか?」



こくりと頷く。



「結界は?
八重様が施して行かれただろう?」


「今は保っています。」



灯世は一層、芦多の着物を握り締めた。



「でも、ちょっと…。」



力が、足りない。



精一杯、力を奮っても、全力疾走した後のように力が入らない。



「わかった。」



と、芦多は灯世の肩を抱いたまま、すっくと立ち上がった。



「芦多、お前!」



二人を認めた辰之助が叫ぶ。



だが今はそんなことに構っていられない。



芦多は皆を見回して声を張り上げた。



「今、魔物がこの屋敷に侵入を試みている!」



魔物、という言葉に広間は騒然となった。



悲鳴を上げる者、泡を食って逃げ出す者、泣き出す者。



あっという間に楽しい宴は阿鼻叫喚の絵図だ。



「男は武器を持って屋敷を固めろ!」


「馬鹿か!
私達が太刀打ち出来ると思うのか!?」



酒で赤くなった顔に更に血を昇らせて、一人の貴族が叫んだ。



そうだそうだと声が上がる。



「お前は強いか知らんが、俺達はお前ほど向こう見ずではないんだ。
その守護者の娘がなんとかするさ。」



なあ、と皆を見回して、賛同を煽る。



「馬鹿はどっちだよ。
女の子に押しつけるのはどーかなぁ?」



声の方向に目を向けると、上機嫌に酒を呷っている千歳がいた。



「うぃー。
よし、野郎共行くぞぉ。」



タンッと音高くお猪口を置き、千歳は立ち上がった。



だいぶ呑んだはずなのに、その足取りはしっかりしているから驚きだ。



千歳に続いて、若い男達が立ち上がる。



どこかみんな、よく似ていた。