呼吸を落ち着けて

脚を無理矢理地面から引き剥がす。


電車に乗り込むと

入り口付近のポールに身体を預けた。


車内はそれなりに混雑していたものの

弱めの冷房が入っていたため

熱気はほとんど感じなかった。


最近はふとした時に夏らしさが

見え隠れするようになってきて

都内の電車はおおかた冷房をつけている。


冷たく乾いた空気が

渚の頬を撫でる。


空気がやけにひんやりとして感じるのは

冷房のせいだけではないだろう。


身体が熱く火照っているのがわかった。



熱い。

身体も――きっと頭も。


はやくこの熱がひいてほしい。



―と、何の脈絡もなく

海の底であさりが潮を吹いているイメージが

頭に浮かんできた。


……なんであさり?

…パスタの材料だから?


ってかあさりって浅い海と深い海のどっちだっけ

と、全く関連性のないことを考え始める。


考え始めてみるとよくわからないイメージが

もこもこと膨らんでくる。



深い 海


海の底