あの時の記憶は何故か断片的で

「あたしが冬夜好きなのは男のひととしてだよ?」

って当たり前みたいに言った後の、冬夜の一瞬の無防備な表情だけが今も鮮明に残っている。


口を半開きにして顔中で「?」って言ってた。



――俺は……渚のこと特別だけど…渚の「特別」とは違う



それを聞いた時、あたしはどんな顔をしていたんだろうか。


氷の上に立っていたのが

急に割れて

氷の下は地面だと思っていたのが

本当は湖で

落下する

冷たい水が肺に侵入して息ができなくなる


あたしは確かにそれを感じた気がした。



あたしはどうしていいのかわからなくなった。


冬夜と喋らない日が10日ほど続いた。

あたしが冬夜を避けた。


だけどそんな状況がいつまでも続く訳はなくて、ある日ついに冬夜から決断を迫られた。



冬夜の主張はこうだった。


今まで通り冬夜にとっては

渚と交わることは快楽以外の何の意味も持たない。

他で彼女も作るし、本命もできるかもしれない。


その上で――


今までの関係を続けるのか

それとも

ただの「仲のいい双子」に戻るのか




――あたしが


冬夜と交わることを知ったあとで

たとえ「仲のいい双子」であれたとしても

身体が 心が


冬夜抜きで生きていかれるわけなかった




あたしはこの道を選んだ。


そしてこの時からあたしと冬夜の中で何かが永遠に失われた。