屈強な男は僧兵に刺し込んでいた腕を抜くと、手に着いた血を軽く舐め、僧正へと向き直った。

「ようジジイ！まだくたばってなかったのかよ！こんな山奥で隠居生活してるって聞いたからよ、優しい俺様がわざわざブチ殺しに来てやったぜ！」

男は腹に響くくらいの大きな声で、僧正に話しかけた。

「…………鴉天狗か………。」

僧正は屈強な体格の男を見てそうつぶやくと頬に汗を一つ垂らした。


「お久し振りですね。僧正…。私を覚えておいでですか？」

そう言ってきたのは、黒服の男だった。


「お前は!!?…鵺（ぬえ）！玄奘に倒されたはずではなかったのか!?
陰陽師、安倍晴明に倒されたにも関わらず、再び生き返りし妖魔め！」


僧正が息を飲むのをニヤリと確認した「ぬえ」と呼ばれた黒服の男は再び話しだした。


「ｸｯｸｯｸ…、その玄奘に用事がありましてねぇ…。こちらにいるとの情報がやっと入りまして。
まぁ古い情報だったので、確認しに来たわけですが…。」

そう言うと再びにやけた顔に戻った。


「玄奘はもうここにはおらん！速やかに立ち去れ！」

僧正は腕を横に振ると大きな声で叫んだ。

「………伝承の儀………奴には子がいたはずだ。違いますか？僧正…。」