両親は私が5歳の時に離婚して私は母に引き取られた。
父の顔は覚えていない。
ただ、私を呼ぶ優しくて少し高めの声は今も私の中に残っている。
母と始めた二人暮らし。
だけどそれはほんの一時のことだった。
「初めまして。えりちゃん。」
その人は父よりも低く、しゃがれた声でそう言った。
見知らぬ男の人は定期的に私たちの家を訪れた。
そして
私が7歳の時、母とその男は籍を入れた。
「これからはお父さんって呼ぶんだよ。」
小さな私には何が起こっているのかわからなかった。
ただ、母が幸せそうな顔をしていたので嬉しかった。


