その日は11月の上旬にしては暑い日だった。 隣には母がいて、言葉というものは一切交わされていない。 ただ無言で家に向かって歩いていた。 重苦しい空気。 逃げ出したい。 だけど私に逃げ場所なんてものはない。 その時、最初の設定時から変えられていない不愛想な着信音が鳴った。 母が私を、というか私の持つバックを見た。 待ち受け画面には“山口久志”の文字。 それすらも私の気持ちを明るくすることはできなかった。