慎二がベンチに座り直し、二人にまっすぐに向かった。

「俺はここでみんなが集まるのを待ってるよ。
お前らも行って来いよ」

「え、どこに」

「別れを惜しむ、ってやつだよ。
二人でゆっくり行って来い」

「慎二・・・」

「しばらく会えなくなるんだろうが。
お前はこれから大学生になって毎日が暇になるとしても、高遠は受験生になるんだぞ。
今までのように頻繁に会うわけにもいかなくなるだろ。

・・・部員全員が集まるには30分はかかると思うけど」


そう言うと、慎二は手のひらの中の携帯電話を振って見せた。


「みんな集まってきたら連絡するし」


慎二の言葉を受け取ると、圭太は一弥と顔を見合わせた。
見合わせた瞬間、一弥の瞳に目がいった。



先程一弥の目頭が赤い気がしたのは、気のせいではなかった。

一弥の瞳は充血していて、いつも以上に涙で潤んでいる。
鼻の先も赤い。


―あ、こいつ・・・。



じっと一弥の顔を見ていると、不思議そうに覗き返されたのであわてて目を逸らす。



「あぁ、ありがとう慎二。行ってくる。
行こうか、一弥」


一弥に声をかけ、二人一緒に部室を出た。