どうやら他の者たちにとって、あの桜の木に垂れ下がっているロープは大して気にするようなことではないらしい。
 

(まぁ、一本だけ桜の木にロープが垂れてたからって、それを気にする奴なんかそうそういねぇか)

 そう思いながらもう一度桜の木に目を移すと、俺は思わず「は?」と間抜けな声をあげてしまった。


 俺の近くを歩いていた奴が大丈夫かこいつ、という目で見てくるが今の俺にはそんなことまったく気にならない。

 そのまま桜の木に魅入られたかのように、桜の木を、そこにある黒いロープを食い入るように見つめる。


 風の悪戯だと思えればどれだけよかったか。
 だが実際は、風などまったく吹いておらず、そんななかで黒いロープはありえないことに重力に逆らって上下に動いていた。
 


(怪奇現象!?)

「いや、アホだろ俺」

 思わず自分の思ったことに突っ込みをしてしまったが、今回は幸い誰にも聞かれていなかったようだ。
 もし聞かれていたら、頭のおかしい奴とでも思われただろう。


 ふうっと一回息をつき、俺はいまだ緩やかに動いているロープに近づくべく足を踏み出した。