何度も瞬きをして確認してみても、その木にだけ枝のところに一本の黒いロープが垂れ下がっている。
 
 それまでピンク一色で塗られたところに黒い色があるというのは、悪目立ちがすぎていて異様な光景だった。


(偶然引っ掛かったのか、はたまた自殺もしくは未遂で使われたのか)

 普段であればすぐに考えすぎだと思い直すのだが、なぜかこのときは、偶然と言うよりも故意にやられたようにしか思えなかった。



 兎にも角にも、未遂ならまだしも自殺などとなればかなり物騒な話だ。というか、めちゃくちゃ面倒くさい。

 平穏な高校生活を期待する俺にとって、面倒事はすべて避けてまわりたいくらいだ。


 だが見つけてしまった以上、気になってしょうがない。それは決して見過ごせないとかそういった理由ではなく、単なる好奇心だった。


(さて、どうするか)

 とりあえず足を止めて考えてみる。件の桜の木は道の真ん中にいる俺とはそれなりに距離のあるところにあるが、俺はそのまま近づくかどうか迷っていた。

 好奇心があるからといって、不可解なものに不用意に近づきたくはない。かといって、このまま立ち止まっているわけにもいかない。

 まだ時間はあるといっても学校に向かう生徒はだんだん増えていて、流れに逆らって静止している俺はかなり邪魔のようだ。

 幾人もの生徒が俺に不審な目を向けながら立ち止まる俺を追い越していく。