お袋は、タクシーから下りて俺の顔をみた。
「なんでじゃないわよ…お父さんの着替えを持ってきたのよ」
そう言ってボストンバックを両手で抱えた。
「あっそう…」
「琉汰は?」
「俺?俺は兄貴に用事があって…」
「用事?用事って何よ」
「いいだろ別に、そんな事までお袋に言わないといけないのかよ!?」
「お母さんには、言えないことなの?!前は…」
【!!】
「ちょっと来て!!」
お袋の少し太い腕を握り、俺は病院の中に入った。
お袋の後ろに目を向けると少し遠くに千冬の姿が見えた。
今、お袋には千冬が親父の病院に通っていることは、知られたくなかった。
「痛いわね!いい加減離しなさい!!」
「あっ!悪い…」
お袋は、俺が握った腕を
さすりながら俺を少し睨んだ。
「…じゃ…俺行くから」
歩きだした俺は、一度振り返った。
【!!お袋…】
お袋は、俺の背中をずっと見ていた。
俺は軽く手を上げ歩きだした。

