「行きたい所があるの…」
千冬は、少し寂しそうに言った。
「…………」
【行きたい所?…】
「…駄目かな?」
千冬は、俺の胸元に顔を向けた。
「…………」
陵君の返事は、聞こえなかった。
「…ごめんね!急に!やっぱり勉強しに行かないとね!…行こう!」
私は、陵君の腕を掴んだ。
「あっ!」
【!?】
俺は、千冬の右手首を掴んだ。
〔…シャリンッ…〕
【行こう…千冬が行きたい所へ…俺が連れていくよ】
私の耳元で鈴が優しく揺れた。
「…良いって事?…」
〔シャリンッ…〕
「ありがとう!」
千冬は、笑顔で言った。
千冬が行きたかった場所は……。
「……ここはね、私が愛した人と、よく来た所なの」
千冬は、そう言って目を閉じた。
【…千冬…】
「…琉汰元気かな…」
千冬は、寂しい目をしながら、小声で言った。
俺は、自分の手を強く握った。
すぐ隣に居る千冬を、今強く抱きしめたい、この気持ちを圧し殺した。
「…この海の先に、琉汰が居る…琉汰、私頑張るからね…」
私の目には、暗闇しか映らないが、その先には琉汰と見た海が見えていた。

