びいだま


この1ヶ月通った病室。


ユウの名札がかかったドアを開けて瑞貴と2人で入った部屋の中には、もう誰もいなくて、シーツもなにもなくなったベッドの上に、窓からの日差しがまぶしくそそいでいた。



思わず顔を見合わせた私達に、廊下から看護師さんが顔を覗かせた。



「垣内さんなら、さっき退院されましたよ?」


「え・・・・?」



病院の前であんなさんに連絡した時には、まだ退院してない、って話だったのに・・・・。



「もしかして、行き違い、かな・・・」


こんなときまですごいタイミングの悪さ。


思わず息を吐き出すように笑うと、瑞貴が黙って私の手をとってその部屋から出た。



「あんなのとこ、行こう」


「・・・・うん。でもちょっと待って?マアコにも今日の入学式のこと行ってあげたいし、よってってもいいかな?」


「・・・・俺は、いいけど」



少し顔を曇らせた瑞貴に、私は笑って見せた。



「気にしてないって、いったらウソになるけど・・・マアコはやっぱり私の友達だし・・・・ユウのことを一番喜んでくれたのは、あれはウソじゃないと今でも思ってるから」



これは本当のことだ。


マアコがあの時祝福してくれたから、肩を押してくれたから、私はユウとかけがえのない時間を過ごせたと、本気で思ってる。


だから・・・・・彼女のお母さんの話とはこれは別だ。