エリはもうあたしの顔を見ることなく、テーブルに置かれたたばこに手を伸ばした。

「なるべく家におらんようにしながら、何とか毎日を過ごしとった…
それでもおかんが、あたしを1人にしんといてって。
あんたしかおらんのにって言うから。
あたしは中学卒業してから、必死で働いて、家にお金入れとった…
でもそのお金は、おかんのシャブに消えるだけやし、だんだんおかんは、幻覚とか見るようになってきてん…」


ソフトケースから取り出されたたばこは、火をつけられることなく、エリの手の中で握り潰されていた。

「あたしの顔見てな、殺される~!あたしこの子に殺される~!とか言いよんねん。
さすがにあたしも、もう限界やった。
だからあたしは、おかんをほって、家を出てんか…」


一気に話した、エリの目には、涙が浮かんでいた。

同時にあたしも、込み上げてくる涙を、押さえる事は出来ひんかった。

二人でボロボロ泣きながら、エリはさらに続けた。

「今日はな、何か、あたしの前の店のパネルを、どっかで見たらしいわ。
住んでるとこは言うてたし、さっきいきなり来よってん。
そんでな、開口一番、お金貸して!や。
どうせシャブ代やろけどな。
久しぶりに会った娘に、それはないやろ…」

エリは涙を拭きながら、呆れたように笑って言った。