母の死は僕にとってはあくまで必然で、一つの事実に過ぎなかった。
少なくとも3日前までの僕にとってはそうだった。
敬愛も思慕も、終いには憎悪すら抱かなくなってしまった相手なのだから、仕方ないだろうと思う。ましてや末期の癌患者だ。余命宣告からしたら、いつ亡くなったって不思議じゃない。
その時は僕の母親という人が亡くなった、くらいの考えだった。
ただ、母を少しずつ知るにつれ過去に触れるにつれ、僕の中の彼女はまるで生者のようにはっきりとした輪郭を持ち始め、母親としてでなく一人の人間“早坂可名子”として呼吸を始めた。
そして、僕はその“早坂可名子”の出現に戸惑うばかりだった。
今こうして泰生さん達に母の話をしている間も、“早坂可名子”の肌には赤みが差し、その髪には潤いが生まれている。
生前亡霊のようだった母は、皮肉にも死後に生気を取り戻したのだ。
それは同時に、僕に感情の潮流を生み出し、僕はその歯痒い感情を持て余していた。
少なくとも3日前までの僕にとってはそうだった。
敬愛も思慕も、終いには憎悪すら抱かなくなってしまった相手なのだから、仕方ないだろうと思う。ましてや末期の癌患者だ。余命宣告からしたら、いつ亡くなったって不思議じゃない。
その時は僕の母親という人が亡くなった、くらいの考えだった。
ただ、母を少しずつ知るにつれ過去に触れるにつれ、僕の中の彼女はまるで生者のようにはっきりとした輪郭を持ち始め、母親としてでなく一人の人間“早坂可名子”として呼吸を始めた。
そして、僕はその“早坂可名子”の出現に戸惑うばかりだった。
今こうして泰生さん達に母の話をしている間も、“早坂可名子”の肌には赤みが差し、その髪には潤いが生まれている。
生前亡霊のようだった母は、皮肉にも死後に生気を取り戻したのだ。
それは同時に、僕に感情の潮流を生み出し、僕はその歯痒い感情を持て余していた。
