中に招き入れられ、十畳ほどの和室に通される。
 泰生さんの奥さんだろうか、すっきりとした短い髪の、姿勢のいい女性がお茶を淹れてくれた。
 ぴかぴかに磨き上げられたテーブルの上で、上品な湯呑みが湯気をたてている。
 「どうぞ。」
健康的な笑顔。花が咲いたみたいに、部屋の雰囲気が和らいだ。
「いただきます。」
新茶の香りとほのかな渋みが口中に広がる。体の緊張が少しぼぐれた。
 「遠い所をよく来てくれました。家族を代表してお礼を言います。」
泰生さんが正座をしたまま深々と頭を下げた。
「いや、そんな!」
僕が激しく慌てたのは言うまでもない。
「僕は父の代理で来ただけですから。母の最期を、伝える為に。」
 しんとした空気の中では、洗濯機がリズムよく働いているのが分かる。
「よく、頑張ったと思います。僕が病院に着いた時には、もう……。」
自分の声が震えて聞こえた。

 僕は母の最期を話し始めた。
容態が急変した事。母の死に顔が驚くほど安らかだった事。それが僕達家族にとって、唯一の救いだった事。伯母の様子と父と姉の様子。
 泰生さんは鼻を啜り、目頭を赤くしながら黙って僕の話に耳を傾けていた。