振り返ると、僕とはそう年の変わらない女の子が怪訝な顔で見つめている。
買い物帰りだろうか、手にはビニール袋、足元はサンダル履きだった。
 「あ、あの、僕早坂皐月といって怪しいものじゃないです。こちらのお宅の方ですか?佐久間泰生さんはご在宅でしょうか?」
 必死に不審者ではないことを伝える。口の中はカラカラ。背中を汗がつたっていくのを感じた。
 ところが、少女は警戒心を隠すことなく、睨むようにこちらを見ている。
 僕もしどろもどろではあるがきちんと話したつもりだったので、少女の反応の薄さと、わざわざ遠くまで来たのにこの有り様とにだんだんと腹が立ってきて、少しむっとして黙った。
 「もしかして、あなたが皐月くん?」
だからそう言ったけど。
何かを思い出したのか、彼女の表情が急に親しげなものに変わる。どうやら誤解は解けたらしい。
 「ごめんなさい、勘違いして。最近下着泥棒が多いの、この辺。田舎なのにいやになっちゃう。」
 照れ笑いを浮かべ失礼を素直に詫びた。歌うような明るい声をしている。
「さぁ、上がって。うちのお父さんが待ってるから。」
 彼女に連れられ、僕は初めて母の生家に足を踏み入れた。