その家は屋敷と呼んでもいい程に大きかった。
 木戸は門と言っても遜色ない。外周をぐるりと高い塀が囲み、敷石が玄関まで続いているのが見える。
 庭は実に贅沢な造りで、手入れの行き届いた枝振りのいい松が敷地の中心を陣取り、絶妙なバランスで敷き詰められた玉砂利の上に苔むした岩が配置されている。
 その正面に時代劇にでも出てきそうな純日本家屋然とした母屋がどっしりと構え、左隣にガレージ付きの小さな離れが建っていた。
 後戻りは出来ない。が、あまりの立派さに圧倒され、情けないことに僕はすっかり怖じ気づいていた。
 ここまで来た以上、門をくぐって敷居を跨ぐしかない。それなのに、その一歩が踏み出せず自分の度胸の無さと不甲斐なさに舌打ちをした。
 「あの、どちら様ですか?」
突然の背後からの声に僕はぎくりとした。