グッバイ・マザー

 年の頃は五十を越えるか越えないか、笑うと銀歯がちらりと覗いた。
 「ここに行きたいんですけど、どのくらいかかります?」
住所が書かれているメモ用紙を差し出した。
「ここね、そうねえ。裏道使って20分位かな。旅行じゃないんだね。」
「はい。親戚の家に行くところです。」
「地元の子じゃないなら、バスの降り口は分からないか。どうする?乗ってく?」
「はい。お願いします。」
 後ろのドアが開く。タクシー独特の香りと、煙草の臭いが同時に鼻をついた。