グッバイ・マザー

 慌てふためいた僕の様子が余程可笑しかったのだろう。若い車掌さんは口元に半端な笑みを浮かべながら、降車口を指してくれた。
 涎とかついてないよな。口の周りをなぞったが、喜ぶべきことにその痕跡は見当たらなかった。
 荷物を抱えながら車両を降りると、朝のひんやりとした空気から、昼の生暖かい空気に変わっていることに気付く。
 時計を確認すると、家を出てから四時間が経過していた。
 改札口を出て、すぐさまタクシー乗り場を探す。
 タクシー乗り場に居た運転手達は、一様に気怠そうに出動の機会を待っていた。
 今の時間帯では、利用客も殆ど無いのだろう。
 「すいません。」
列の先頭の運転手に声をかけると、彼は中々の愛想笑いを顔面に浮かべた。