グッバイ・マザー

 車窓からは四季を感じさせる景色が現れては消えていき、まるでコマ回しのように流れていく。山や川や田畑、軒を列ねる小さな家や踏切が開くのを待つ車の列。空は曇ったり晴れてみたりを繰り返しながら、雲は固まったり千切れたりを繰り返しながら、車窓を様々に彩ってくれる。
 途中の駅から、老夫婦が乗り込んできた。彼らは大層な荷物を引きずるようにしながら進み、僕の後列の席に腰を下ろした。年の頃は70を少し越えるか、金婚式に夫婦二人で旅行でも、といった様相だ。
 「だから宅配で送ろうって言ったんだ。」
「だって、心配じゃない。途中で紛失したりしたら。」
 二人の話す声が、イヤフォン越しでもはっきり聞こえる。隣の席で寝ていた出張風の男が、咳払いを一つした。
 声をひそめた夫婦の会話は、すぐに聞こえなくなった。